会計検査院が昨年11月に公表した令和4年度決算検査報告によると、退職手当等の支払を受けた者が所得税の確定申告を行った際に、退職所得の金額の加算が漏れ、基礎控除等が適正に適用されていないケースが相当数見受けられたといいます。
国税庁はHPで、退職所得の受給に関する申告書を提出した者でも、確定申告書を提出する場合には退職所得の金額を含めて申告する必要があることを明示し、注意喚起を行っております。
退職手当等の支払を受ける者は、退職手当等の支払を受ける際に所得税等の額が源泉徴収されるため、原則として確定申告は必要ありません。ただし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない者が退職金等の支払金額の20.42%で源泉徴収されたものについて精算を行う場合や、医療費控除など一定の控除を適用する場合は、退職所得の金額を含めて記載した所得税申告書を提出して確定申告を行うことになります。
合計所得金額から差し引く基礎控除の金額は次のとおり。合計所得金額が2,500万円を超えると基礎控除額は消失する仕組みとなっております。
【参考】基礎控除
納税者本人の合計所得金額 控除額
2,400万円以下 48万円
2,400万円超2,450万円以下 32万円
2,450万円超2,500万円以下 16万円
2,500万円超 0円
会計検査院は、国税庁から所得税申告書データ及び源泉徴収票データを受けるなどして、法人の役員等に係る令和2年分又は3年分の退職所得の源泉徴収票において500万円以上の退職手当等の支払を受けたとされている者の中から、その年分の所得税の確定申告を行っていた役員等計32,843人を選定して検査しました。
検査の結果、対象者の72%(23,750人)が退職所得の金額を含めずに確定申告をしていたとのこと。この退職所得の金額を加算した合計所得金額に応じて基礎控除等が適正に適用されたかを確認したところ、合計所得金額が2,500万円を超え基礎控除の適用要件を満たさないにもかかわらず基礎控除等の額を計上するなどしていた役員等は4,515人にのぼりました。
国税庁は会計検査院による指摘を受けて、退職手当等の支払を受けた役員等の所得税申告書における基礎控除等に係る申告審理を行うにあたり、源泉徴収票データを活用した具体的な事務処理手続を定め、昨年8月に事務連絡を発出して全国の税務署等に周知しました。
また、退職所得がある年分の確定申告を行う場合は所得税申告書に退職所得の金額を含める必要があることについて、同庁HPに掲載している「令和5年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」や「退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」で周知を行っております。
参考資料 税務通信
埼玉本部 秋元